独立自尊経営は「非常識」経営
スズキはフォルクス・ワーゲンとのエコカー分野での技術提携を狙った資本提携を解消して自主独立路線を進めている。エコカー技術の開発に膨大な経営資源を必要とする自動車産業にあって他社との合従連衡は妥当で常識的な戦略だ。
トヨタ、GM、VW、日産ルノー連合などのビッグビジネスとの資本業務提携を目指すか、規模は小さいがユニークな独自の技術やブランドで存在感を増すホンダやダイムラーなどとの提携を目指すかの選択はあるにしても他者との戦略的提携は常識的な世界戦略だ。
しかしスズキはあえて「非常識」な独自路線を歩む。独立自尊経営に勝算はあるのか?
スズキは軽自動車を含む小型車に特化して、このビジネス領域でダントツの低価格化と燃費性能を独自技術開発で目指す戦略で他社との違いを創ろうとしているように見える。
燃費性能の高度化はそのまま低価格化につながる
スズキの燃費性能を巡るイノベーションは車体の軽量化を進めることだ。そして軽量化は材料費のコストダウンにつながるからそのまま低価格化に直結する。
「スズキは小型車を軽自動車並みに軽量化する技術を開発した。車の骨組みに当たる車台(プラットホーム)を刷新、従来比で15%軽量化する。2014年以降に発売する新車ではこれまでより燃費性能が1~2割改善、ガソリン1リットルあたり30キロメートル台を目指す。ハイブリッド車(HV)に対抗するほか、新興国にも投入して軽に並ぶ収益の柱にする
スズキの主力小型車はエンジン排気量が1.2リットルで車重が1トン程度。新型車台を使うと800~900キログラム程度まで車重を抑え、排気量660cc以下の軽並みの燃費を実現できる。
同社は軽「アルト」ではガソリン車トップの燃料1リットル当たり35キロメートルを実現する一方、小型車の燃費は26.4キロにとどまっていた。新型車台の採用で同30キロ台の軽やHV並みの燃費が視野に入る。
スズキはこれまで「1部品1グラム運動」と呼ばれる部品軽量化のほか「超高張力鋼板(スーパーハイテン)」と呼ばれる素材を業界でいち早く使うなどの手法で燃費改善を図ってきた。部品や素材変更による軽量化に加え、車台そのものの設計から見直す。
」。(日経新聞2013.12.13)
ハイブリッド車開発も独自に
ハイブリッドカーの開発もエコカーの技術開発の選択肢の一つだ。電気自動車(EV)や燃料電池自動車の開発競争が行われているが、その普及にはまだ大きなイノベーションが必要であり、それまでのつなぎにHV車は欠かせない持ち駒になる。
HVをつなぎの選択肢として位置づけないで、いっきにEVの普及を目指した日産は苦戦を強いられている。EVの普及に必要とする社会インフラ整備と電池の低価格化は思うようにスピードは上がらなかったからだ。
スズキは軽自動車のハイブリッド化をめざしこれを5年後に実用化し、この技術を小型車にも搭載して、今後環境規制が強まるアジア市場での競争優位を構築する意図を鮮明にしたわけだ。
「スズキの鈴木修会長兼社長は6日、日本経済新聞社の取材に応じ、『ハイブリッド車を開発し、将来はインドや東南アジアに展開したい』と述べた。
減速時の回転力を使って生み出したエネルギーを利用する『エネチャージ』と呼ばれる技術を発展させ、燃費性能を上げる。
5年後をめどにHVを開発。燃費性能に優れる軽の技術を小型車に盛り込み、今後、燃費規制が強化されるアジアで展開する方針だ」。
軽自動車と小型車の違いはなくなる
軽自動車の概念は日本独自のモノだ。TPP加盟後は日本での軽自動車と小型車との境界は急速に消えていくはずだ。となると軽自動車で培った先端技術を小型車に持ち込み、高度な燃費性能と低価格を武器に戦わなければ、日本を含めたアジア小型車市場での生き残りはない。むしろこうしたピンチこそ大きなチャンスにつながるはずだ。
アジア市場展開への布石
このチャンスを逃さないためにスズキはマーケット領域をインド中心から、大きくアジア全域に踏み込む戦略を意図し、インドネシアとタイに大型の新規投資を行った。
「海外戦略について鈴木会長は『インドネシアとタイの新工場を東南アジア域内に輸出する旗艦工場に位置づける』と話した。インドネシアで年産能力を20万台、タイで5万台の計25万台とし、左ハンドル車をベトナム、フィリピン、ミャンマー、カンボジアへ1~2割程度輸出を目指す。
まず関税引き下げが進む東南アジア諸国連合(ASEAN)域内を狙い、軽の技術を取り入れた『Aスター』を各地に出荷する方針だ」。
独自路線で壮大な意図を描き、実現の意欲にあふれるスズキにエールを送りたい。
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