増税によって強まる生活必需品の買い控え
消費税増税に対応する小売店の動きが活発になっている。前回1997年の消費税増税時には、耐久消費財で買い控えが長引いたものの、生活必需品は3ヶ月ぐらいで消費は元の水準に戻った。しかし今回は生活必需品も買い控えなど消費水準が長期に低迷することが予想されている。
一つには円安による消費財の価格水準が上昇しているので、これに増税が追い打ちをかけて価格水準がもう一段と上昇することが要因だ。
もう一つは少子高齢化によって、守りの消費行動が主流を占めるという意味で消費構造の変化が大きな変化を見せていることが要因としてあげられる。
ディスカウント店の変化対応
こうした変化に対して小売業の対応も素早い。いち早い対応を示しているのがディスカウント店だ。ディスカウント店は増税をチャンスととらえて郊外店だけでなく首都圏も含めて出店攻勢を加速させている。
「ダイエーは首都圏で「ビッグ・エー」を180店展開しているが、売り場面積が200平方メートル強と従来よりも3~5割小さい新型店を開発。東京23区のコンビニエンスストアやドラッグストアの跡地にも出店攻勢をかけ、新型店だけで16年度までに80~90店を出す。食品や日用品を2000品目そろえ、ナショナルブランド(NB)商品はコンビニより2~3割、スーパーより1割前後安くする。
イオンはNBと比べて3~5割安い格安PBを中心に扱うディスカウント店「アコレ」を首都圏で70店強展開するが、来春までに100店体制に拡大。アコレの売り場面積は250平方メートル程度で、東京都内の駅から少し離れた住宅街で、ドラッグストアなどの退店跡を狙う。1個58円のカップめんなどの格安PBの品ぞろえは14年春までに最大600品目と1年前の1.5倍に増やす。
セブン&アイも今春、「ザ・プライス」の出店を約3年ぶりに再開。現在は首都圏で12店展開するが、14年度以降も年3店前後のペースで出店する。
ディスカウント専業も出店ペースを上げる。オーケーは14年度に13年度比倍増の約10店を出店し、都心近郊を中心に1000~1500平方メートルの店舗を拡大する。トライアルカンパニー(福岡市)も14年度に20店強と、過去最高だった12年度と同水準の新規出店を計画している」。(日本経済新聞2013.12.17)
スーパー、コンビニの変化対応
スーパー、コンビニも変化対応に動いている。一つはPBによる高品質低価格の対応だ。この動きはすでに大きなうねりになって小売業界を席巻しているが、増税がこの勢いを強める。
二つ目は価格訴求の販促の拡大だ。増税後は実質的に価格維持の特売による競争が日常的になる。つまり増税後はEDLPがすべての小売店頭で当たりまえの施策になる。
三つ目はメーカーのコストダウンによる価格維持政策の推進だ。メーカーも増税部分を価格に転嫁することは困難とみているし、価格転嫁したとしても需要が低迷することが予想されるので、先手を打って価格維持を追求することになるはずだ。
それでも消費の低迷は続く
こうした小売業やメーカーの必死の努力にもかかわらず、価格の上昇は抑えきることは困難だ。円安がメーカーや小売りの価格維持の努力を無にしてしまうからだ。物価の優良児だった鶏卵さえも円安による飼料価格の上昇で価格の上昇を抑えきれない状態になっている。
「鶏卵の卸価格が8年8カ月ぶりの高値を付けている。今夏の猛暑で親鶏の一部が死んだり産卵率が低下したりしていることが主因だが、背景に飼料価格の上昇など構造的な市場の変化もありそうだ。
鶏卵の高値を生産者は手放しで喜んでいない。飼料価格が高騰しているうえ、相場上昇がそのまま収益に結びついていないからだ。日本養鶏協会(東京・中央)によると今年度に入って事実上廃業した養鶏業者は137。すでに昨年度の2.7倍だ。「これ以上借金を増やせないという中小が多い」。同協会の竹下正幸会長は話す。
加工業者は国内生産が不足すると、輸入でしのいできた。国内消費に占める輸入の割合は5%ほど。東日本大震災後には輸入量が約2割増えた。ただ、昨年からの円安進行と世界的な需要増で輸入品の調達が難航している」。(日本経済新聞2013.12.17)
円安は輸入原材料の価格上昇を通じて生活必需品の価格を押し上げている。この圧力に抗しきれないところに増税負担が加わって、メーカーや小売業の努力にもかかわらず物価は上昇を続けることになる。その先にあるのは消費低迷の長いトンネルに違いない。
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