キャノンの社外取締役選任の目的は的外れ
キャノンが初めて社外取締役を選任する。その狙いを知ってビックリ仰天してしまった。
御手洗会長兼社長はその狙いを次のように語っている。
「体裁を整えるために社外取締役を導入しても仕方がない。この点で私の信念は全く変わっていない。今回、2人の方にお願いするのは具体的な必要性が生じたからだ。
一つはM&A(合併・買収)への法的対応の強化。これまでの主な成約は国内外で6件だが、今後増えてくる。そこで法務部門の指導や人材育成を、弁護士で元大阪高検検事長の斉田国太郎氏にお願いした。
もう一つは移転価格税制への対応。海外で製品や部品を生産して日本に輸入する際、外国の税務当局から実際より多額の利益が出ているとみなされて現地で課税されることが増えてきた。国際税務部門の人材を育て、外国政府との交渉力を高めるために元国税庁長官の加藤治彦・証券保管振替機構社長をお招きする」。(日本経済新聞14/3/10朝刊)
M&Aの法的な対応も移転価格税制への対応も経営上の大きな課題ではあるだろう。しかしこうした個別課題への対応を巡る助言や人材育成支援であれば、顧問とかコンサルタントを招へいすれば済む話だ。
この意味でキャノンは社外取締役の選任の目的を理解しているとは言い難い。
社外取締役のミッションはなんだ?
そもそも社外取締役の選任の目的はなんだろうか。
社外取締役のミッションは一般株主の立場に立って、企業経営にあたる執行役員が企業価値を継続的に上げていくための努力を積極的に実行しているか、その任にふさわしい力量をもっているかを監督し、それに疑念があるときはしかるべき手を打つことだ。
この場合のしかるべき手とは究極には社長交替を発議することだ。
日立はイイ線いっている
「2月3日、東京都港区で開かれた講演会。日立製作所の川村隆会長が経営改革と企業統治(コーポレートガバナンス)について語り始めた。
「事業をグローバル展開すれば世界中で競争に直面します。それをまず取締役会でやってしまおう、と考えました」
日立の社外取締役は取締役会の過半を占め、外国人も3人いる。例えば中近東への進出案が出ると意見や質問、社外取締役の知識や経験の披露が相次ぐ。グローバル競争を仮想体験し、リスクを事前に洗い出すために女性も含めてメンバーを多様化させた。社外人材を招く目的は明確だった」。(日本経済新聞14/3/10朝刊)
日立の場合は企業戦略の議論を取締役会の中心テーマに置き、社外取締役がこの議論に積極的に加わって戦略策定に大きな影響力を持つことができていると言える。
社外取締役の機能を十分に引き出すためには
社外取締役がそのミッションを十分に果たすためにはいくつかの条件整備が必要だ。
先ず第一に社外取締役が企業を取り巻くステークホルダーからは一線を画していることが大前提になる。いわゆる独立取締役であることが求められる。
この点で日本の実態はお寒いかぎりだ。米国やドイツでは独立社外取締役を選任している企業は60%を優に超えているが、日本はまだ20%にも満たない。
二つ目に重要なのは、社外取締役の人数だ。社外取締役がたった一人では取締役会で孤立無援になる。少なくとも複数の選任がなければその機能を果たすことは不可能だ。
三つ目には社外取締役を取締役会議長に選任することだ。日本では取締役会長なり取締役社長なりが取締役会の議長である企業がほとんどだ。
これではと社外取締役が発言しても、株主総会での株主発言に対するよくある対応のように、「貴重なご意見ありがとうございました」で終わってしまいがちだ。
この状況を超えて、社外取締役が取締役会をリードするかたちを設計しなければならない。このために取締役会議長を社外取締役が務めることは不可欠だ。
四つ目には社外取締役同士の意見交換の場を定期的に設定し、相応の時間をかけて企業の経営状況の実態についての共通認識を共有することが必要だ。これが締役会での議論を効果的なものにする上で欠かせない。
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