「政府は全国民に割り振る社会保障と税の共通番号(マイナンバー)を医療分野にも活用する方針だ。
本人が同意すれば、医療機関や介護施設が個人の医療情報を共有し、無駄な検査・投薬を避けられるようにする。マイナンバーで集めた医療情報をビッグデータとして分析することで、過剰な検査などを省いて国民医療費を抑制したり、新薬の開発に活用したりする」。(日経新聞2014.6.18朝刊)
マイナンバーを活用して医療費の増加抑制や削減を目指す動きがようやく始まった。
医療機関での検査結果とカルテとレセプトをマイナンバーで連結して個人に結び付ければ、個人ごとの医療情報がデータとして活用できるようになる。
この実現には二つの大きなITシステム開発の課題がある。
一つは個人の医療データを蓄積し閲覧するための巨大なデータベースの構築とその運用システムの開発だ。
二つ目は医療機関の作成する検査データやカルテデータを標準化して、医療データベースに収集するシステム開発だ。
現状の電子カルテは医療機関ごとに個別に開発されているのでこのデータを統一フォーマットに整理したうえでリアルタイムに近いタイミングでデータベースに送り込むことが必要になる。
こうした巨大システムを効率的にしかも低コストで開発することが求められる。
同時にすべての医療機関がカルテや検査データを統合医療データベースにつなぐインターフェイス機能を装備しなければならないことから、医療機関がその投資を進んで実施するためのインセンティブを設計する必要がある。
この医療データベースシステムは開発に巨額のコストを投じなければならないが、このシステムによって得られるメリットは計り知れないものがある。それはいま思いつくだけでも次のようなものがある。
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個人のカルテ、検査データを中心に複数の医療機関や医師が連携して最適な治療方針を策定することができる
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個人病院が地域の大規模医療機関と個人の医療データを媒介に連携することで、質の高い主治医制度が機能し始める
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個人病院、介護施設、薬剤師、地域大規模医療機関を個人の医療データを媒介につなぐことで地域包括医療ネットワークを有効に機能させることができる
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医師が個人の医療データを媒介に薬剤師と連携することにより、投薬の質的な水準を高度化することができる
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匿名の多数の臨床ビッグデータを解析して治療方法の高度化を検討することができる。少なくとも自動診断システムはかなりの精度で開発可能になり、医師の診断のナビゲーション・システムは大きく高度化するはずだ
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匿名の多数の臨床ビッグデータを解析して新薬の開発の促進につなげることができる
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匿名の多数の臨床ビッグデータを解析して新薬の開発に伴う臨床試験の質的高度化とスピードアップにつなげることができる
医療ビッグデータの活用によって大きな効果が得られることになるが、医療費の削減につなげるには、医療データベースの実現に加えて本格的な医薬分業の実現が不可欠になる。
本格的な医薬分業とは、薬剤師が医師と対等の立場で薬剤の投与の評価を行い、場合によっては最適な処方箋を医師に示して医師の判断を変えさせる権限を持つことだ。そしてこのことも医療ビッグデータが機能して初めて実現可能になる。
医師と薬剤師が対等な立場で、文殊の知恵を出し合いながら患者の最適な治療に貢献することが、マイナンバー制の向こう側に期待することができるということだ。
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