セブン・アイの強みはセブンイレブンの強みにほかならない
「日経ビジネス」6月16日号で「セブン 鉄の支配力」と題してセブン・アイ・グループの分析が掲載されている。
セブン・アイの強さはとりもなおさずセブンイレブンの強さと言い換えることができる。
「日経ビジネス」の分析によると、セブンイレブンの圧倒的な強みは現在16,400店に達する店舗数。この数は二位のローソンを4,000店上回っている。
店舗数だけではない。店舗ごとの販売力も他のチェーンを圧倒している。一日当たりの店舗売上高は664,000円。二位のローソンに122,000円の差をつけている。
これだけで年間売上高はローソンに比べて1,800億円の開きが出ることになる。
販売力の源泉は何か?
それは施策の徹底力だ。2週に一度、3,000名のフィールドカウンセラーを本社に集めて開催されるFC会議が方針の組織共有と現場への徹底の原動力だ。
方針と言ってもきわめて具体的だ。例えばその週の売れ筋商品を取り上げて全店で徹底して取り組むことが示達される。
また仮説検証を実施して大きな成果を上げた具体的な事例を取り上げ、その事例の全社横展開を徹底し、かつ仮説検証の学習を深化させていることも見逃せない。
こうした単純ともいえる知識共有を10年一日の如く、飽きずに繰り返す徹底ぶりは他の組織が真似しようとしてもおいそれとはいかない。
そしてこの繰り返しがオペレーションの基本の徹底と、顧客の変化にスピーディに対応する盤石の力を組織の隅々に埋め込み、セブンイレブンの圧倒的な販売力を形成しているのだ。
販売力が出店力の原動力
強力な販売力によって店舗売上が他社チェーンを大きく上回ることは出店の優位性につながる。毎年2,000店近くの出店を継続できる原動力になっている。
比較的地盤の弱かった関西でも、その販売力をテコに、JR西日本の駅中チェーンを全店セブンイレブンに転換してしまった。
この事例は全国の鉄道各社の経営する駅中コンビニをセブンが一気に独占する端緒とみることも可能だ。JR東日本の経営するNEWDAYSも例外ではなく、NEWDAYSのロゴがいつSEVEN ELEVENの看板に替わっても不思議ではない。
出店に関わるもう一つの優位性はドミナント出店によって生まれている。地域に集中して出店することによって、物流効率を高度化し、フィールドカウンセラーによる店舗指導の効率も格段に向上する。
こうした店舗数と販売力の格段の優位性が、年間19億個のおにぎりの販売につながっている。
この圧倒的な販売力がセブンによるメーカー支配力の源泉になっている。圧倒的な販売力を背景とした顧客ニーズの高感度受信力によって、カテゴリーリーダーである強力メーカーの研究開発力をあたかも自社の組織機能であるかのように活用するポジションを獲得できているといえるのだ。
所有しない経営
セブンイレブンの強みの源泉として販売力と出店力を見てきた。強みはこれだけではない。もう一つ所有しない強みというものがある。
そもそもフランチャイズ制そのものが持たざる経営の極致だ。店舗はオーナーの所有になる。本部は原則として店舗に対する設備投資をしなくて済む。
店舗だけではない。セブンイレブンに提供する商品を製造する工場設備も、商品を在庫し搬送する物流設備もすべて他社の所有になる。
即ちセブンイレブンはサプライチェーンや商品の研究開発に関わるあらゆる土地や設備、人財を所有せずしてあたかも自社組織の如く活用することができている。
そしてその他者組織の能力の活用度合も、販売力の大きさに比例するという意味では、他者比べて群を抜く水準に達している。
こうして他社の優れた能力を自家薬篭中のものとして活用できるポジションを得ているからこそ、セブンプレミアムの高品質で相対的に低価格の商品群が可能になっている。
弱みはないのか?
一見非の打ちどころのないように見えるセブンイレブンだが、弱点は本当にないのだろうか。
とりあえず二つの点を指摘しておきたい。
一つは強力なピラミッド構造の組織体系に弱点が潜んでいる。ピラミッドの頂点に君臨するカリスマが退場した後、彼に替わるカリスマは期待できそうにない。この時必要なのは組織の各レベルでの自律的なマネジメント能力がどれだけ鍛え上げられているかということだ。
その転換が遅れると、あたかも秦の始皇帝が倒れた後、秦帝国が雲散霧消したと同様の事態が生じかねない。
二つ目は持たざる経営の限界だ。販売力が現在の勢いで拡大すると、商品供給能力の更なる拡大が必要になるわけだ。このスピードにこれまで追随できたベンダー群もついていけない企業が出てくるはずだ。
とするとセブンの自己資金で設備投資をせざるを得ない事態が生じてくる。こうなるとイノベーション能力の縮退が生じることを避けられない。
店舗もいつまでも有能なフランチャイジーが継続して出てくるわけではない。自社直営店を増やす道と、巨大法人にフランチャイジーとして参加してもらうことになる。結果として店主はサラリーマン化する。加盟店舗の店主の企業家精神が希薄化したとき基本の徹底と変化対応の組織能力も次第に希薄化することが避けられない。
このほころびをどれだけ事前に読み込んで手当のための施策を繰り出せるかが見ものということになる。
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