日本でも起業を活性化するためにシードアクセラレーターの役割が不可欠だと、日経新聞2015.3.16『経済教室』で東大教授柳川範之氏が指摘している。
柳川教授は起業するうえでの重要成功要因(CFS:Critical Fctor for Success)は二つあるという。
起業するうえでのCFSの一つは、実行してみないとわからないということだ。実行する前にあれこれ熟慮するのも大切だが、実行してのちに乗り越えなければならない壁に直面して試行錯誤を重ねることが成功に至るうえで避けて通れないプロセスなのだ。
起業するうえでの二つ目のCFSは、「アイデアを事業化する際に人的ネットワークがカギを握る場合が多いという点である。ニューヨーク大学のアレキサンダー・ヤングビスト教授らが明らかにしているように、ベンチャーキャピタルの重要な要素は資金提供だけでなく、むしろ人的ネットワークを通じた人脈や経営アドバイスを提供することにある」。
そしてこの二つ目のCFSである起業家に人的なネットワークへのアクセスの鍵を提供する組織が拡充しつつあるという。
それが「スタートアップ段階の企業に資金提供するシードアクセラレーター(以下アクセラレーター)という組織である。欧米では近年急速に拡大しており、日本でも増えつつある。米ドロップボックスや米エアビーアンドビーといった著名な新興企業がアクセラレーターから資金提供を受けていたこともあり、注目されている」。
「ニューヨーク大大学院生のサンディ・ユウ氏の論文によれば、米国のアクセラレーターが個々の企業に提供する資金は平均で2万ドルを超えないレベルである。その代わり重要なのは、メンターと呼ばれる起業経験者や投資家などによるアドバイスの役割だ。アクセラレーターは研修プログラムを提供し、その研修でメンターが様々なアドバイスをする。経営上の問題点などを指摘され、経営手法などを学んだあとで、資金提供を受ける仕組みになっている」。
アクセラレーターはいわばゆりかごの段階で起業家並びに起業した組織が、自律的に成長を遂げるために不可欠な、遺伝子を組み込み、同時に成長を支援する環境としての有用なネットワークへのアクセスの鍵を渡す機能を果たすと考えられる。
こうしてゆりかご状態から自立した企業が、続いてベンチャーキャピタルなどから資金提供をうけ、さらに成長していくことになる。
「しかし、アクセラレーターから資金提供を受けた企業は、通常のスタートアップ企業に比べて早々に撤退しているケースも多く『失敗』の投資もかなりある。つまりアクセラレーターは、メンターによるアドバイスを提供しつつ、比較的少額でアイデアを実験的に実行させる役割を社会的に担っていると考えられる」。
つまり企業の一つ目のCFSである、「実行してみないとわからない」というまさに企業の「序の口」を可能な限り迅速に、しかも失敗の定石を回避しながら通り抜けるための装置としてアクセラレーターが機能しているということになるだろう。
すなわちアクセラレーターはよくありがちでしかも回避するのにはそれなりに優れた暗黙知が必要とされる失敗の罠に陥らないように、起業家をコーチングしながら、起業家の取り組む新機軸の事業の成否をスピーディに見極める組織と言うことができる。
「日本でこれからスタートアップの一層の増大を考える際には、このアクセラレーターの機能から学ぶべき点は多いように思われる」。
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