アップルは6月30日音楽をストリーミング方式で配信する定額聞き放題サービス、「アップル・ミュージック」の提供を始めた。先行する英スポティファイなどと同規模の3千万曲をそろえ、日本を含む100ヶ国以上でこのサービスを展開する。
アップルはこの新サービス提供を契機にコンテンツ制作サイドとの連携を緊密にしていくための打ち手を展開している。
「アップルは個別曲・アルバムのダウンロード販売では7割だった音楽会社の取り分をさらに数%上乗せした。ダウンロード販売についても利益配分の上乗せを検討している。昨年買収した米ビーツ・エレクトロニクスの人脈をコンテンツ獲得に生かし、ビーツ出身の専門家の力を借りて利用者の好みに合った曲を推薦する手法も確立した」。(日経新聞2015.7.1朝刊)
音楽や映像の配信サービスを手掛けるIT企業はすでに、コンテンツ業界への急接近を始めている。
「米動画配信大手ネットフリックスは8月に人気俳優ブラッド・ピット氏企画の戦争映画の制作に入る。今年はコンテンツ制作・獲得に30億ドル(約3700億円)以上を投じる見通しだ。同社は今秋にサービスを始める日本でも独自コンテンツにこだわる。男女の共同生活を描いたフジテレビジョンの人気番組『テラスハウス』の新シリーズなどを先行配信する。
米アマゾン・ドット・コムも自前の制作スタジオを運営し、昨年はコンテンツ獲得に約13億ドルを投じた。今年から映画祭での買い付けを始め、劇場公開から数カ月後には自社サービス上で独占配信する計画だ」。(同)
アップルの音楽、映像配信サービスであるi-tuneはi-podとセットで登場し、一時は音楽、映像配信サービスの領域で独占的な地位を築いた。しかし配信サービスの他社参入や端末の多様化によってi-tuneの先行的地位は揺らぎ始めた。そして最近の楽曲の定額聞き放題サービスへのIT業界からの競争的な参入がアップルの地位を大きく揺るがした。
この状況でアップルは新サービスへの遅ればせの意参入とともに、コンテンツ制作業界との融合を実現して、単に配信するだけでなく、創造分野への参画を果たして、圧倒的な規模のユーザーとの直接的なコミュニケーション力を駆使して、コンテンツ制作により魅力的な創造性を付与し、創造的なアーティストを囲い込む戦略の実現に踏み出したわけだ。
ところでアップルのこの動きを音楽、映画製作を事業分野の一つとするソニーが指をくわえて見過ごすことがあってはならない。ソニーはアップルに先駆けてコンテンツ制作に身を置いて、そのビジネスノウハウを磨いてきたはずだ。
それに加えてソニーはアップルが持たない映像、音響ビジネスに魅力的なコンピテンスを持っている。そしてソニーの音響、映像技術は当然コンテンツ制作と融合して、競争優位の価値創造を実現しているはずだ。
ソニーがコンテンツ配信サービスに本格参入して、その優れたノン狂、映像技術に裏付けられたコンテンツ制作と融合することで、アップルを超える価値創造を果たすことが可能になる。
そのとき同時にソニー制作のコンテンツが、ソニー製のテレビやスマホなどの端末でなくては実現できない臨場感を持ったひときわ質の高い映像や楽曲を経験する仕掛けを内蔵していたら、ソニーは圧倒的な競争優位に立つはずだ。
折りしもソニーは公募増資などで4400億円の資金調達に踏み切ったが、その使途は画像センサーもさることながら、こうした壮大なビジョンの実現に向けて投下することも一考に値する。
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