日本電産の永守会長兼社長は日本電産での働き方改革が大きな成果を上げていると決算会見で語った。
「『モーレツ』はもうウチにはない」。永守社長は働き方改革の説明に多くの時間を割いたのだ。労働時間を減らして収益力を底上げするという。
代表例が残業削減。1年前から定時退社を推進し、朝礼時に上司に申告して許可を得ないと残業ができないようにした。ムダな仕事が理由の残業は認められない。業務の生産性を落とさずに残業を3割減らした。研究開発部門の若手男性社員は「仕事が残っていても定時を過ぎると『早く帰れ』と言われる。どう仕事の効率を上げるか必死で考えるようになった」。
「16年度からは会議時間も短縮。会議用資料の分量も減らすように号令をかけた。すると資料作りのための残業は減った。
残業削減による4~9月期のコスト削減効果は約10億円。この一部は成果に応じて社員に一時金や教育などで再配分する予定だ。『定時退社して語学を学んでもらった方がはるかに競争力が高まる』。こう語る永守社長は『20年までに残業ゼロを目指す』という」。(日経新聞2016.10.25付朝刊)
残業ゼロを目指して何が起きたのか。
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仕事上のムリ、ムラ、ムダの削減が行われた。労働生産性の大きな改善が見られたということだ。「上司の指示はほとんどが思いつきだ」と言われるように、個々の作業や会議について「どんな目的のためにそれを行うか?」を改めて問い直すことが残業セロという制約を設けることで始まるのだ。
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定時に帰社することで従業員は自己啓発や趣味を楽しむこと、さらには家族との団らんに時間を積極的に使うことが可能になった。つまり生活の質や従業員のスキルアップを通して従業員の労働の質が向上するということだ。
結果として大きなコスト削減効果が得られた。良いことづくめだからすべての企業でこれが実現できるとは限らない。永守氏のようなカリスマ的な経営者が号令をかけなければ様々な言い訳が噴出して実行に移せないことは目に見えている。
一番大きな抵抗は残業代が生活給の一部に組み入れられているという従業員側の実態だ。日本電産でも6ヶ月で10億円多分年間では弾みがついて30億円ほどのコスト削減を達成してしまうだろう。しかしその裏には30億円の給与の削減と言う事態が貼り付いているのだ。
この従業員の抵抗感を排除しなければ大きな成果はえられない。従業員の抵抗を乗り越える方策は、日本電産のように残業ゼロの成果を会社がすべて吸収するのではなく、すべてを従業員の報酬として還元することだ。このやり方はすでにSCSKが実行して残業削減で大きな成果を上げている。
永守氏のようなカリスマ経営者がいないところではこのようにすれば残業ゼロを実現しその成果を享受できることになる。従業員参加による仕事の見直しや従業員のスキル・能力拡充による生産性向上は残業代を超える大きなメリットを会社にもたらしてくれるはずだ。つまり残業ゼロの成果を従業員にすべて還元しても、それを上回るコストダウンが実現できるということだ。
アベノミクスの中心に働き方改革が位置づけられて様々な議論が行われているけれど、日本電産の事例を見るまでもなく残業ゼロを実現すれば働き方改革は大きく前進するはずだ。
労働基準法では労働時間は週40時間以内と定められている。残業ゼロの世界を作るにはこの基準を厳格に運用することだけで良い。つまり36協定を廃止すればいいとうことだ。36協定があるために残業時間はある意味で無制限になっているのであるから。
日本電産と同じように2020年までに残業ゼロすなわち36協定廃止を目指してステップバイステップで実現に向かうことが働き方に関わるほとんどの課題を解決していく一番の近道と考えられる。
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