EUはカーボンニュートラルを目指して大胆な目標を設定して、50年には発電を100%再生エネルギーで賄う政策の実現に向けて確実な動きを進めている。
EUの革新的な政策は地球環境分野だけでなく、男女間の賃金格差の是正や半導体の自給率の向上そしてデジタル・トランスフォーメーションといった領域でも矢継ぎ早に進行している。
EUの男女間賃金格差是正
EUの欧州委員会は男女間の賃金格差解消に向けて、2年先の加盟各国での新法制定を目指した指令案を策定した。指令案は大きく、
(1)賃金の透明性向上策
(2)賃金で差別された労働者への支援措置
からなっている。
具体的には以下のことが盛り込まれている。
透明性については、
・ 面接前に求職者に広告などを通じて賃金水準を明示することが義務付けられる。
・ 企業が求職者に過去の賃金水準を聞くのを禁じ、過去の情報を参考に新賃金を決められなくする。あくまでその企業の職務にあった金額を提示すべきだという考えだ。
・ 労働者に、同様の職務に就く従業員の平均賃金水準を知る権利を認め、企業は情報提供に応じなければならなくなる。
・ 男女間の賃金格差に関する情報をホームページなどで年ごとに明示することを義務付ける。
・ 格差が5%以上の場合は、企業は是正に向けた対応を求められる。
労働者への支援措置では、
・ 性別で差別を受けた労働者が企業に補償を求めやすくなるよう、裁判などで差別が存在しないことを証明する責任を企業側に負わせる。
・ 欧州委は各国での法制化の段階で、違反企業に罰金を含む罰則を科す規定を盛り込むよう求める。
こう見るととても具体的に賃金格差の是正に取り組む意思が明確に読み取ることができる。そして何よりも男女間の賃金格差の是正だけでなく、すべての労働者に「同一労働、同一賃金を保証する立法意思が確認できる。あるいは男女賃金格差に切り込むことで、「同一労働、同一賃金」への近道が見えてくるという戦略的な意図が隠されているのかもしれない。
以上が日経新聞2021.03.09朝刊の報道するところだ。
日本こそ男女賃金同一化に取り組むべきだ
EU統計局によると、19年時点でEU域内の女性の賃金は男性に比べ14.1%低いという。10年に比べ1.7ポイント改善しているものの、欧州委は不十分と判断して新法制定に踏み切る。
ところで日本の男女間賃金格差はどうか。大和総研の報告によると17年の数字で、24.5%の開きがあり、先進国7カ国中最も格差が大きい。
米国とカナダの男女間賃金格差が18.2%で日本に次いでいる。
EU内部での男女別の賃金格差は国によるばらつきが大きい。チェコ、ラトビア、オーストリア、ドイツ、エストニアなどの格差がおおきく20%近辺の実態がある。しかしそれでも日本よりはその格差は小さい。
EU委員会はEU内部でのバラツキの実態を重く見て、男女賃金格差の是正に向けて本格的な対策に乗り出したと言える。
EUのこれからの成熟化の中で女性の活躍が避けては通れない、との判断がこうした思い切った戦略的な政策を打ち出した背景にあると言える。
日本も成熟国として女性の活躍は待ったなしの課題だ。しかし日本の現状はまことに寒々しい状況にある。
賃金格差だけでなく女性の活躍を阻む実態は世界水準から見ても大きく遅れをとっている。
世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数2018」では、日本は110位/149カ国。先進7カ国では最下位だ。
日本においてこそ男女賃金格差の是正は真っ先に取り組まれるべき課題だ。