日経新聞は1月7日「EV大競走 ソニー難敵アップルに先手を打つ」と題する記事を掲載した。
ソニー会長兼社長の吉田氏はCESに登壇し、ソニーカーのコンセプトをプレゼンした。
日経新聞の伝える吉田氏のプレゼン内容からソニーカーのコンセプトを確認してみよう。
「車の価値を『移動』から『エンタメ』に変える」
ソニーの強みである画像センサー、映像・音響技術、コンテンツを結集して、車を移動の道具から進化させ、エンタメを楽しむ空間へと変貌させるのだという。
「リビングのような車」
サスペンションを制御して、路面から受ける車体の振動を打ち消す。
ノイズキャンセルの技術を使って、周囲の騒音を遮断する。
こうしてリビングで映画やゲームを楽しんでいるような環境を提供する。
自動運転につながる安全の追求
40個に及ぶ画像センサーを車内外に搭載し、人間では察知できないリスクを感知する。
リカーリング(継続課金)型の事業モデル
ハードウエアを売って終わりではなく、ソフトを通じて5~10年にわたって車を進化させられる環境をつくる
基本的に(多くの)アセット(資産)を持たない
ハードの製造。組み立ては協力会社に委託する。ファブレス型の企画開発に専念し、スマイルカーブの左端と右端に特化する事業モデルを追求する。
日経新聞はウオークマン以後iPod、iPhone、iPadによってAppleによって完膚なきまでに席巻された、オーディオ、エンタメ、通信分野で、ソニーはEVの事業領域に参入してリベンジを果たそうと触れ込んでいる。
そして今回の吉田氏のCESでのプレゼンがその号砲になるとまで持ち上げている。
果たしてそうか?
TESLAの戦略
すでにEV事業で最先端を疾駆しているテスラの戦略を見てみよう。
ソフト・ウエアドリブンによる価値創造
テスラはすでに車を走るスマホに見立てて、OS、電子制御ユニット、マンマシンインターフェース、そしてエンタメ系のアプリもほとんど自社開発している。
またソフトはオプションごとに価格が設定され、その提供はサブスクで行われる。
これらのソフトは継続的にアップデートされ、通信経由でダウンロードされる。
主要部品の自社開発
テスラは電池、半導体などの中核部品を自社開発している。
顧客体験からNO提供価値の進化
テスラは販売した全車の走行データを収集し、その膨大なビッグデータを解析して車の継続的な進化につなげている。
その改善点は以下のように多岐にわたっている。
・バグフィックス
・セキュリティ
・自動運転関連
・利便性の向上
・パフォーマンス向上
・エンターテインメント
・コンフォート
Appleはさらに手強い
テスラが目指すように車が「走るスマホ」であるなら、iPhoneで世界を席巻したAppleこそEVにおいても覇者になりうるポジションにいる。この点でソニーはすでに太刀打ちできないポジションではないだろうか。
AppleはiPhoneでApple Carの制御を完璧に行うこと程度の目標は設定しているだろう。
またiPhoneの調達システムに倣って、ファブレスによるSCMを構築するに違いない。
この点はテスラと一線を画すことになるだろう。
このように見ると、ソニーカーのコンセプトはテスラにもAppleにも見劣りする。
唯一優位点があるとしたら、車をリビングに見立てているところだ。
これを突き詰めると、もはや車の形状は現状のセダン対応とは全くかけ離れたものになるはずだ。
さらに先を見て自動運転を前提とした時、車はもはや運転席、助手席のないボックスタイプのリビングやカラオケボックスのようになるまでの想像をしなければならない。
ここまでのコンセプト拡張を突き詰めるならばソニーにもリベンジのチャンスがあるかもしれない。