1月30日付け日経新聞は「円安の重圧 暮らしに」と題する記事で、円安が「安い日本」を加速させていると警鐘を鳴らしている。
日銀は円安について「基本的にプラスの効果が大きい」(黒田東彦総裁)との立場を崩していない。
しかし円安で輸出が拡大し輸出セクターの収益増加が経済成長のエンジンとなるという構造はもはや失われつつある。
経済のグローバル化の進展とドル危機以降の円高の持続で輸出企業は人件費と物流費の削減を求めて工場を海外に展開してきた。輸出セクターにとって円安はさほどの収益増加を生み出さなくなった。
12年以降の大規模金融緩和による円安の進行は輸入品の価格上昇をもたらした。
加えて、「ほぼすべてを輸入に依存する原油など資源価格の上昇で、21年7~9月の企業間取引の輸入物価指数は前年比で3割上昇。同期間の輸出物価指数の上昇率(1割)を大きく上回った」。
こうして輸出価格と輸入価格を比べて貿易での稼ぎやすさを示す交易条件の悪化が進行した。21年7~9月の交易条件の悪化幅は遡れる05年以降で最大だった。
円安の進行は家計を直撃している。
「幅広い生活品目で輸入依存が進んでいる。国内消費に占める輸入品の比率をみると、家電・家具などの耐久消費財は34%となり、10年ほど前の1.7倍に高まった。食品・衣料品などの消費財も同1.4倍の25%に上昇した。
国内経済は低成長で賃金が上がらない。その中での身近な品目の上昇は家計の重圧となる。一端が家計の消費に占める食費の割合を示すエンゲル係数の上昇だ。21年1~11月は25%超と、1980年代半ば以来の水準に高まった」。
「アップルの「iPhone13」を手に入れるのに必要な労働時間からも日本の買う力の衰えがわかる。英マネースーパーマーケットが各国の月給をもとに計算したところ日本では72時間働く必要があるが、端末価格が日本より高いはずのオーストラリアやデンマークは60時間程度ですむ」。
経済のグローバル化は日本の産業構造を大きく変えてきた。
結果として現れたのは資源から消費財に至るあらゆる物品の輸入依存度の拡大だ。
つまり製造業の空洞化であり、自給率の低下だ。
こうした構造の中での円安は生活者の所得の収縮を伴うインフレの進行と、海外の供給が不安定になることによる経済基盤の不安定化を拡大する。
金融緩和が続く限り生活者は今後貧困と不安定な物資の供給による不安に脅かされることになるかもしれない。

