キーエンスの並外れたSCMについて見ていこう。
キーエンスの並外れたSCM能力を実現する戦略ストーリーは第3図のように表現される。
第3図
顧客の設備停止時間短縮への貢献
キーエンスでは「顧客の設備故障停止時間短縮への貢献」を可能にすることが、並外れたSCM能力を獲得することに繋がると考えられている。
納入した機器やセンサーが故障によって万が一にも設備を停止することがあってはならない。
故障の発生を事前に予知できれば、故障停止以前に代替機やセンサー部品を即納してことなきを得ることに備えることが可能だ。
万が一故障大使が起きてしまった後でも、いかにスピーディに代替機やセンサー部品を納入することが顧客の付加価値額を削ることに繋がらない決め手となるはずだ。
つまり機器であれば代替機を即納する、センサーであれば代替センサーを即納することが顧客の損失をゼロにしたり、最低限に抑えるために必要な要件になる。
顧客での製品の使用状況のデータベース化
また代替機であれセンサーであれそれがどのような環境で、どのような使われ方をされているのかが分かれば、代替機の設定や付加機能の追加が短時間で容易になり、しかも納品してすぐにラインに投入され使用できる状態が作れる。
このためには機器やセンサーを納入した顧客に対する顧客情報が完璧な形で収集、蓄積されていなければならない。
全品在庫だから即納
また即納体制のためには機器やセンサーが全て在庫として保有されていることが求められる。この要件を満たすためには自社工場だけでは到底賄いきれない。
全商品の在庫を保持するためには協力工場に製造を委託し、製品の全品在庫をしてもらうことが合理的だ。
いやむしろ製造プロセスは協力工場への委託に任せて、自社は商品企画と開発に専念する体制が並外れたSCM能力を獲得する上で最も合理的なあるべき姿になる。
こうしてキーエンスはファブレス企業としてのビジネスモデルを整えることになった。
ただキーエンスは製造機能を完全に外部に委ねるのではなく、自社工場も構えて全商品の10%程度を製造している。自社工場では新商品の試作や、品質保証と製造コストの低減のための製造プロセスの持続的進化への取り組みが行われ、自社工場はマザー工場として位置付けられている。