テスラの戦略ストーリーは第4図で示されるとおりだ。
完全自動運転の実現
テスラのビジョン実現のための2番目の目標は、「完全自動運転の実現」だ。
なぜ「完全自動運転」なのか。
1. 完全自動化によって自動車はようやく完成形を迎えることができるからだ。ヒトが操縦するクルマは「走る凶器」であり、操縦するヒトの能力は不完全であるがゆえに、絶え間なく事故が発生し、多くのヒトが犠牲になっている。
2. 自動化によって各車の走行経路の最適化が行われ、渋滞が回避され、走行に要するエネルギーの効率的な消費が自動的に実現する。
3. ほとんどのヒトにとって運転はストレスを伴い、できれば回避したい苦行だ。閉所に閉じ込められ、視神経と脳をフルに働かせることによるストレス。長時間の移動ともなればそのストレスは耐え難いものになる。自動運転はこのストレスからヒトを解放する。
イーロン・マスクの掲げる完全自動運転のEVのイメージは、ハンドル、アクセル、ブレーキのない車だ。もはやそれは既存の自動車のイメージとはかけ離れた、「走るリビング」、「走るオフィス」、「走る寝室」のようなものだ。あるべき姿のイメージはいくらでも拡がる。
テスラの自動運転の特徴
「米国自動車技術会(SAE)の自動運転のレベル定義をベースに国土交通省が示した自動運転のレベル分けは第5図で示される。
第5図自動運転のレベル分け
テスラの自動運転は「エンハンスト・オートパオロット(EOP)」および「フル・セルフ・ドライビング・ケイパビリティ(FSD)」の二つのグレードのアプリの選択ができるようになっている。
EOPは自動で高速道の走行を可能にしている。FSDはEOPの機能に加えて市街地でのオートステアリングも可能にしている。これらの仕組みでレベル3をクリアしていると言える。
テスラの自動運転の特徴は次のとおりだ。
1. 地図情報は使わずセンサーとAIが自動運転をサポートしている。
2. EOP、FSDのインストールで自動運転を可能にするハードウエアを全車種で標準装備している。
3. ソフトウエアアップデートで継続的に機能進化が可能になるように設計されている。
地図情報を使用しないというのはグーグルに対して徹底した差別化をしようとするイーロン・マスクのこだわりから来ているようだ。マスク曰く「人は眼と脳だけで車を操っている」。
そしてこのマスクのこだわりは自動運転ソフト開発をグーグルとのコラボレーションによって実現しようとして、ラリー・ペイジに声をかけたところ、ペイジはそれをすげなく断わり、Googleは自動運転ソフトを独自開発する道を選択したという経緯に端を発しているようだ。
徹底したソフトウエア・ドリブンでの価値提供
テスラにとってEVはもはや自動車の概念から大きく離脱してしまっている。例えて言えば「走るコンピューター」、「走るスマホ」ともいうべき価値の提供を目指している。EVの制御はほとんどがソフトウエアによって実現されている。その究極の姿こそ完全自動運転(FSD)ソフトの開発・提供だ。
こうしたソフトウエア・ドリブンを可能にするためにはモジュール化によって統合されたハードをセンサーからの情報によって制御するためのECU(電子制御ユニット)を管理するOSの開発・進化が必要だ。テスラのハード制御のOSは高度な学習能力を持つAIによってサポートされている。
このAI開発・進化の機能はカリフォルニアに集約されている。そしてAI開発・進化のためのスーパーコンピューター(DOJO)をも自社開発している。
またソフトのインストールはオンラインで自動的に実行されるが、そのためにはテスラ車は常時接続状態にあることが求められ、前回で紹介したスターリンクがそれを可能にしている。
次の回ではテスラのビジョンの実現につながる第3の目標、「耐えざる生産性向上そしてコスト・ダウン」について見て行こう。